親族内承継とは,経営者が子ども等の親族に対し,経営権を承継させることをいいます(なお,以下,特に断りませんが,会社の従業員に承継させる場合も親族内承継の一種と考えていきます。)。その方法が,親族への株式移転(譲渡・相続)及び事業用資産の移転(譲渡・相続)並びに親族への事業譲渡等のM&Aです。
2020年版中小企業白書によれば,事業を承継した社長と先代経営者との関係は,「同族承継」の割合が最も多いものの,全体に占める割合は年々減少し,他方,「内部昇格」による事業承継,つまり従業員承継が増加傾向にあり,2019年における全体に占める割合は,「同族承継」と同程度です。また,「外部招聘」も増加傾向にあるなど,親族外承継が事業承継の有力な選択肢となっているとされています(同書Ⅰ-140頁)。しかし,昨今,同族経営をファミリー企業と称して,創業精神の貫徹,不易流行の経営姿勢により,経営成績がそうでない企業を上回っていること,景気変動に強いこと等として,ファミリー企業を積極的に位置づける傾向もあり,親族内承継が事業承継の基本的な形態であることに変わりはありません。
ところが,中小企業における経営者の事業承継の意向を見ると,「今はまだ事業承継について考えていない。」と回答した企業の割合が最も多く,次いで「現在の事業を継続するつもりはない。」,「親族内承継を考えている。」となっており(同書Ⅰ-141頁),親族内承継への意向は,強くないのが現状です。
親族内承継を難しくするもの,言い換えれば,経営者に親族内承継を躊躇させるものは,当該会社のBS状況及びPL状況という内部要因と業種業態全体としての業績見通しや景気変動等の外部要因が考えられますが,最も大切なのは,「人の承継の問題」です。つまり適切な親族を後継者として選び,これを育成し,適切なタイミングでその後継者にバトンタッチをすることができるかです。
日々経営上の決断や業務に追われる中小企業の経営者にとって,事業継続を決断し,事業を親族に譲り渡すという意欲を燃やし続けること,他方で,経営者の厳しい立場を間近に見る後継者が経営者の事業継続を支持し,事業を譲り受ける意欲を燃やし続けること,いずれもたやすいことではありません。
親族内承継・相続の業務を担当する者には,第三者承継・M&Aの場合と同じように,三つの力(適切な価格設定,相手方探し,及び法的リスクの確認・評価)が求められます。と同時に,「情」と「理」のバランスに配慮しつつ,現経営者及び後継者のいずれにも寄り添い,リーガルアドバイスや中小企業法務を担当してきた知識や経験を提供するとともに,事業を親族に譲り渡すという意欲,事業を譲り受ける意欲を燃やし続けることができるようなエネルギーを供給することが大切だと思っています。
当法律事務所は,蓄積した資源を全投入して,皆様のニーズや期待に応えるべく,依頼者の皆様との信頼関係を大切にし,ベストを尽くしたいと存じます。